2010年08月07日

作者の「他者」としてのエンヴィー(インタビュー考察)

ぱふ2010年9月号『鋼の錬金術師』荒川弘インタビューでエンヴィーのことにも触れられていた。
以下、少し文面を引用して、だらっと語ります。



----【エンヴィーの最後についてインタビュー記事】-------

荒川:エンヴィーは、本当はけちょんけちょんに消し炭にしてやろうかと思っていたんです。
だけど1巻から積み重ねてきたほかのキャラクターたちが止めに入って。
私としては大佐と同じように、よくも殺したな!っていう気持ちがヒューズの死からずっとあったので、23巻のあたりでは完全にマスタングにシンクロしていたんです。
描きながら、コイツ殺してやる!っていう感じになっていたんですけど、ネームになると、やはりエドや中尉が何も言わないわけがなくて、私自身がキャラクターに止められちゃったんですよね。
それですごくモヤモヤしたまま担当さんに原稿を渡して(笑)。
あのときは、あー面白くないものを描いちゃったかなーと思いました…。

---------【引用終わり】---------------------

今年のユリイカ2月号の藤田氏との対談でも同じようなことが言われていたが、このインタビューでは「モヤモヤした」という表現が使われてて、「意図しないものが出来てしまった」ことが強調されている。いずれにせよ、エンヴィーは荒川さんが素直に感情移入したいたぐいのキャラでないことだけは間違いない。


実は私は前から、荒川さんのインタビューを読めば読むほど、この方がエンヴィーを生み出したと言うことを不思議に思っていた。エンヴィーというキャラは、えげつなく、また奇妙な猥雑さがあり、作者本人とはどうも相容れない雰囲気なのに、それでいて生き生きとしたキャラだったからだ。
そしてさすがは作家だな、と思うと同時に、荒川さんご本人のパーソナリティについて、漠然と、次の二つの可能性を考えていた。

一つは、実は見た目よりも二面性があり、感情の負の部分については絶対にはっきり口にはしない複雑な人という可能性。
もう一つは、本人の表に出てる意識は至ってポジティヴで前向きで、しかしながら作品と向き合うと何かが取り憑いたように物語が降りてくるという、イタコ体質の人である可能性。

そしてこれまでの読んだところを総合する限り、どちらかといえば後者であるような気がする。

恐らく、作者はエンヴィーというキャラをかなり自分とは相容れないタイプ、感情移入の難しい存在として捉えながらも、何かが乗り移ったように生き生きと描いてしまったのだ。
つまり、エンヴィーは作者の中の「他者」が投影されたキャラとしてある、と考えていいだろう。

もちろん、エンヴィーだけが鬼っ子というわけではなく、荒川さんは別のインタビューで「キャラにはそれぞれちょっと嫌だなと思う部分もいれる」と話しておられた。ただ、これらの発言からするに、こめられた「嫌な部分」の程度はエンヴィーにおいて甚だしいとみてもいいだろう。

例えば、エンヴィーは子殺しのひとである。
作中において、女性キャラの多くが母性的な優しさを演出し、ラストにすら「母」のイメージが重ねられてことを考えると、作戦のためとはいえ、子どもすら手にかけたというエンヴィーのこの要素は、かなり作中でも「救いがたい」性質の表現として用いられているのではないかと感じる。
更に彼(彼女)は「よき父」たるヒューズを殺している。そのために妻の姿まで借りている。徹底的に「家族の絆」を撹乱して、親密な領域を踏み荒らしているのだ。

人間に嫉妬した事を指摘されて死んでいくことになるエンヴィーが、子どもを殺し、「よき親」を殺した存在であるというのは、とても「つじつまがあって」いる。どちらもしばしば、「幸せ」「安心」「人間として社会につながっていること」の象徴として多くの人に意識されているからだ。

エンヴィーは「消し炭のようになるまで」燃され、「理解されたこと」で自ら命を絶つわけだが、この経緯は、エンヴィーより責任も重く手を汚していそうなプライドが「母」への情を示したあと、少なくとも肉体の上では救われていたことを考えると、対照的である。
「家族の尊重」という要素がどれだけ作品世界で重きを成しており、またエンヴィーがいかにそれに逆らった存在であるかを示唆しているように思えてならない。

(なお、付け加えると、エンヴィーは自分自身の父親には忘我とも言える献身ぶりを示す。この要素から、エンヴィーは単に人間とホムンクルスを差別して捉えているだけだという考え方も出来る。つまりホムンクルスの親子関係は大事であるが、人間のそれは認めていないという可能性である。他方、エンヴィーの「お父様」とエンヴィー自身の関係が、一方的な処罰の可能性や絶対服従という暴力を伴うものであることを考えると、別の可能性もある。エンヴィーは暴力的な絆しか持っていない自分をどうしても肯定したい。そのために、そうでない優しい人間同士の親子関係に嫉妬し、それを憎悪しているという可能性である。)


最後のエンヴィーによる自死のシーンは、色々解釈も評価も分かれるところだろう。
私自身についていえば、最初から今まで一貫して「いいな」と思うのは、そこに感じる「他者の手応え」のようなもの、だろうか。どんなに働きかけても自分の意のままにならない存在、私たちの思い通りに動いてくれない人の存在感、ごつっとぶちあたる違和感、のようなものを感じさせてくれるのだ。

なのでエンヴィーについて、私は今でも物語世界の中の「破れ目」というか、特異点のような存在として捉えている。


眠くなって、長くなったのでここで終わり。
何か久しぶりにブログで長々とエンヴィーについて書いた…w
posted by サキオ at 00:10| Comment(4) | TrackBack(0) | ハガレン考察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは〜、ご無沙汰しておりました。
すっかり…引きこもりになっておりました〜。
サキオさんの考察は本当に深いですね〜、何回も読み返してしまいました。
Posted by ダリア at 2010年08月12日 04:53
大変ご無沙汰しております!ゆきねこです!

いや〜勉強させて頂ました。
自分の造り上げた悪役をここまで嫌う作者も珍しいですよね。
漫画のキャラってどんな最低最悪の奴でも作者だけはそいつの味方で理解者で愛着があると信じていたもので。
素晴らしい完成度のキャラだけに意外です。
こだわりはあるけど愛はなというところでしょうか?

しかしながら、そうなるとエンビは父(おとーさま)にも母(創造主)にも道具?としてしか愛されない本っ当ーに稀に見る可哀想な子だったわけですね。それはそれでなんだか萌えますが(病)ww

大変ためになるご考察ありがとうございました!!
Posted by ゆきねこ at 2010年08月12日 18:13
>ダリアさま

どうも(´∀`)ノシ
準備お疲れ様です…!!
そしてご訪問ありがとうございます^^

お言葉ありがとうございました。
何か終わりの方とか眠くて文がグダグダでお恥ずかしいww

それにしてもエンビはいいキャラでしたね…(しみじみ
相変わらず萌えさかり中とまりません。夏だ…。
Posted by 管理人 at 2010年08月13日 22:27
>ゆきねこさま

おお〜お久しぶりです!ご訪問ありがとうございます!!

作者様はもともと身内をけなすみたいなノリで「どこがいいの〜?」とかおっしゃったりするので、エンビに対してもそうなのかな?と、思っていたのですが…この感じだと割と本気でエンビは「わけがわからんやつ」だったんですかね^^;
完全に「愛がなかった」のかはわかりませんが…。

あ、でも「消し炭にしたかった」のか…υ

>そうなるとエンビは父(おとーさま)にも母(創造主)にも道具?としてしか愛されない…

うっ、いわれてみれば Σ(´Д`lll)
そう考えると実に不憫……でも萌える…かもハァハァ(←

いやほんと、改めてエンビはおいしいキャラですね…!
Posted by 管理人 at 2010年08月13日 22:46
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